アルツハイマーデー記念講演会
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地域交流会 大田市講演会

片山禎夫先生の講演 認知症を患っても健やかに共に生きる

(1)脳の機能
 認知症とは病名ではなく認知症という症状です。物忘れともう一つ以上の症状〜失見当識・失認・失行・失語など〜を発症した時に認知症という。実際には発症前の物忘れで悩んでおら れる患者も多い。
 記憶には憶えやすい記憶と憶えにくい記憶の2つがある。憶えやすいとは心に残るもの、情動記憶である。快適や歓びの中で落ち着くと記憶は残る。逆に気が散ると記憶されない。不安、混乱、恐れそして不穏の中では脳の機能は低下する。

(2)ケアの基本
 認知症の症状を発した時、多くの患者は、他の人の迷惑を掛けたくないと思い、自分独りで生きて行く気持ちが強くなることを理解して欲しい。独りで解決しようとする 行動が多くなる。その気持ちを周りの人が理解しないで不用意な発言や行動は本人にとってとて も苦しいものになる。同時にその否定・非難・叱責・強要は決して嬉しいものではない。
 更に物忘れは最近の新しいものから忘れられていく。その人の人生、環境、生活習慣を知って いなければ共に生活はできない。その人の自信と誇りを大切に考えなければならない。

(3)認知症の病気
 アルツハイマー病 軽度認知機能障害の段階からの対応が急務である。 物忘れで非難されたり変だと思われると、軽度から認知症へと深化して行き、自信と誇りをなくして孤独になり攻撃的になる。病的健忘、失見当識、相貌失認は、混乱と不安を引き起こし思い 起そうと努力します。それを非難されると暴言、暴力が始まることになります。足の不自由な人 に早く走れと言うようなものです。悪い記憶を引き起こすと行動や生活を阻害することになる。 だからこそ認知症を理解し、支え方が重要で優しく笑顔での対応が大切です。一緒に行動を共にして過ごすことが大切です。
 レビー小体型認知症 尋ねると考え込んでしまう。パーキンソン症状の発症、便秘、頻尿、幻覚、レム睡眠行動障害、嗅覚障害を発症する。私は「一緒に遊びま症」と呼んでいます。一緒に行動を共にする。散歩でもトイレでも共にすることが大切です。
 前頭側頭型認知症(ビック病)  ネクタイを収集する。本屋さんへ行くと本を持って帰る。自転車を回収する。万引きでもごみ収集でもない、決して他の人から誉めて貰えないのですが、一生懸命に出来ることを努力しているのです。「さびしん坊病」と呼んでいます。家族・仲間は行動を共にし、その努力に共感し感謝の言葉態度を示す。気持ちを転換することができる。

(4)認知症のケア
 早期発見〜本人が何に困っているかを知ること。①時間がかかる②おっくうになる③怒り始める④嫌な顔をする。
 病状を知る〜その人のたった一つのストレスを見つけること。①健忘(病的な物忘れ)②失見当識(日付が分からない)③失行(着物の着方がわからない)④失認(人の顔がわからない)⑤失語(言葉がわかりにくい)⑥判断力の低下(複数の声がすると分からない)など
 適切なケアとは、①本人にストレスがかからない対応をすることです。本人に笑顔がでる対応をすることです。②本人ができないことを、家族、仲間そして地域が楽しく一緒に行うことです。仲間づくりが大切です。

(6)認知症の地域連携
 家族の心を理解〜大切なピアノにおしっこをかけた父を許せない娘。口の中のご飯を顔に吐き掛けられ母の顔を叩いてしまった娘。家族も自信と誇りを失っています。その心を理解してください。一緒に悩んでください。

 でも世界で一カ所だけその苦しみを解決する場所があります。元気が出て笑顔が出る場所があります。それは家族の集いです。「家族の会」が作る「家族の集い」です。「ああそれはあるある。同しだわ・・」と、一緒に、悩み苦しみを理解してくれる仲間の存在です。

 そして更に、世界で一つだけ介護家族を救うことばがあります。地域の人と本人と家族にかわされることばです。それは、地域にあふれる「ありがとう」ということばです。こうした地域が本人と家族を元気づけます。街づくりとは、家族が話しも相談も出来ない地域ではありません。病気の人を早く発見することではありません。「病院につれて行きなさい」や「もっと介護をしなさい」と言った言葉ではありません。ただ「ありがとう」というお互いを結びつけ共感しあうことばです。

 一緒に会って、食べて、話し合って、笑って、共に支えあう地域をつくることこそが大切です。感謝のことば、あいさつが響き合うことこそが治療なのです。周りの人に笑顔がでるような地域こそが求められます。今日はありがとうございました。

杉山孝博Dr高齢者介護・看護のための医学基礎知識研修講座

 認知症の人と家族の会副代表理事で神奈川・川崎幸クリニック院長の杉山隆博先生を講師に招いたセミナー「高齢者介護・看護のための医学基礎知識-高齢者の変化に『気づく』ための知識を習得する」が12月4日、松江市殿町のサンラポーむらくもで開催され、専門職や家族の会会員ら43人がみっちり5時間の研修を受けました。
 足がつるのはミネラル不足。ミネラルの豊富な野菜ジュースを飲ませれば症状は改善されますよ、などと在宅医療に徹しながら最前線の医療を追求してきた杉山先生の、意外にも身近な介護・医療の秘策に全員が聞き入りました。セミナーの中から印象に残ったほんの一部を紹介します。

<からだの働きの変化>
 種々の生理機能は加齢とともに減退。聴力は特に高い音が早く聞こえにくくなる。補聴器は音がそのまま大きくなるからうるさくて外したがる。まずは高齢者には向き合って話すこと。メガホンも有効。味覚は塩味は著しく鈍く、甘み、酸味も衰えるが苦味は若者と変わらない。

<高齢者の臨床的特徴>
 各種検査は個人差が大。本来の疾患と関係ない合併症を起こし易く、薬の副作用も出やすい。

<健康観察、病状観察のポイント>
 食欲があれば多少の症状の変化に振り回されない。話し方、歩き方、機嫌、表情など普段と違っていないか見る。尿量の減少に注意。最大の介護はその人の意欲を高めること。病人の言うことをまずは受け入れる。少しの変化もほめる。褥瘡治療に砂糖が効果がある。浸透圧で膿を出す。羊羹が腐らない原理と同じです。

<高齢者の主な症状と、その理解と対応法>
 便秘で腹痛や吐き気、嘔吐などの症状が出なければ数日薬を使わなくてもよい。薬を使って毎日か数日おきに便を出そうとすると、薬が効かなくなり薬の種類と量が増える。但し腸閉塞を起こしやすい人、痔で排便が困難な人などは緩下剤を使う。便秘は大腸や直腸の病変、糖尿病など全身の病気の一つの症状として出てくることがある。精神安定剤などの副作用として出現することもあり、定期的な検診で大腸がんが発見されることも稀ではない。
 胸痛や呼吸困難が出た場合、胸骨と肋骨、あるいは肋骨同士の癒合部の亀裂骨折と考えるとよい。肋骨を1本1本押すとはっきりした痛みを訴える。バストバンドなどで肋骨の動きを固定すると痛みが軽くなる

<高齢者の主な疾患とその理解>
 血圧は条件により20〜30mmHgくらいは上下する。血圧の動きに一喜一憂しないこと。高血圧の治療の目的は合併症の予防。頭痛・めまい・肩こりが取れたらよいというものではない。
 脳卒中の予防は「歩け、歩け、そして歩け」。寝たきりの原因の20%が骨折。一番多いのは脊椎の圧迫骨折。次いで大腿骨頚部骨折。高齢者に骨折が多いのは骨の老化、筋力や反射神経も衰えて転倒しやすい。予防はカルシュウムの摂取量を増やしたり、つまずかないように環境を整える。

<知っておきたい薬の知識>
 薬は原則的に毒であり、期待する効果と、副作用も起こりうるという認識が必要。お年寄りは肝臓や腎臓の働きが低下してくるため薬の代謝・排泄がスムーズに行かない。複数の病気や症状を持つため多種類の薬が処方されやすいが、副作用によるものか本来の症状か区別しにくい。漫然と飲み続けないで医師に報告して指示を受ける。

<高度医療と在宅ケア>
 胃瘻による栄養補給での延命効果はあるが、末期になり消化吸収力が低下すると全身浮腫、呼吸器感染症、褥瘡や下痢などの消化器症状などが出て、介護の手間が非常にかかり、本人にとっても幸せな状態といえないと思う。在宅で医療を24時間提供できる体制を取っている私は、本人・家族の意向を尊重しながら、認知症のターミナルでは胃瘻を造らないようにしている。

<感染症>
 かつて結核、B型肝炎、緑膿菌感染症などの感染症、スモン・水俣病などの薬害・公害などで、ある時期感染症疾患と疑われただけで、最も弱い立場の患者が隔離・排除されてきた。一番初めに差別するものは家族や医療・福祉関係者になることが少なくない。

<アルツハイマー型認知症の治療薬>
 アリセプトに加えて2011年になってメマリー錠(アリセプトとの併用可)、レミニール(アリセプトとの併用不可)、リバスタッチおよびイクセロンが相次いで保険診療で使用可能となった。4種の薬はすでに世界70以上の国と地域で承認されており、日本もやっと世界のレベルに達した。

 杉山先生は平成21年4月から1年間、山陰中央新報で「知っていますか? 認知症」というタイトルで記事を連載され、島根県内で家族の会が主催するセミナーも4回目です。先生は東大医学部在学中からサリドマイド禍やスモン訴訟水俣病など薬害や公害問題に取り組み、「認知症の人と家族の会」(当初は「ぼけ老人をかかえる家族の会」)にも結成当時から参加してきました。「医療はサービス業」に徹し、勤務する診療所では往診を重視し24時間携帯電話で指示が出せるように心掛けているほか、身寄りもお金も無い患者が亡くなってからの葬儀についてまで行政とも掛け合っています。自著のサイン「前向きに」がモットーです。