「家族の会」は、次の見解を発表しました。裁判は遺族が控訴し、現在名古屋高裁で審理中です。来年1月で結審する予定です。「家族の会」は、一審判決が取り消されるように主張しています。


 

  認知症の人の徘徊は防ぎきれない
  家族に責任を押しつけた一審判決は取り消すべき

    認知症列車事故 名古屋地裁判決に対する見解
    2013年12月11日 公益社団法人 認知症の人と家族の会

1 あまりに認知症と介護の実態を知らない判決に怒り
 今年8月9日に出された、認知症男性の徘徊による列車事故での家族に対する損害賠償請求事件での名古屋地裁判決には、驚きとともに怒りを覚えました。

 JRの駅構内で要介護4の認知症の男性(91)が列車と衝突し死亡したことにより、JR側に発生した損害額720万円は残された遺族が支払え、というものです。その理由は、男性が家を出たのはデイサービスから帰宅した夕方であり、そのとき男性と二人暮らしだった妻がたとえ6、7分であったとしても居眠りをしていて気づかなかったことが注意義務を怠ったとされたものです。 また、男性の長男は、妻を両親宅の近くに転居させて介護に当たらせていたものの、自分も近くに住まなかったこと、民間の介護施設やヘルパーを依頼しなかったことなどが、徘徊を防止する措置を講じなかったとして監督義務を怠ったとされたのです。

 しかし、介護保険制度を使っても認知症の人を24時間、一瞬の隙もなく見守っていることは 不可能で、それでも徘徊を防げと言われれば、柱にくくりつけるか、鍵のかかる部屋に閉じ込めるしかありません。判決はそのような認知症の人の実態をまったく理解していません。

 また、介護はそれぞれの条件に応じて行っているのであり、百家族あれば百通りの介護があるのです。判決は、そのような条件や努力を無視し、まるで揚げ足取りのように責めたてています。

  認知症サポーターが440万人を超え、社会で認知症の人を支えようという時代に、今回の判決 は、認知症への誤解を招き介護する家族の意欲を消滅させる、時代遅れで非情なものと言わざるを得ません。

2 名古屋高裁で一審判決を取り消すべき
 名古屋地裁の判決が前例になるなら、在宅で介護している家族の多くは在宅介護を放棄することになりかねません。それは「できるだけ住み慣れた地域で」という今日の流れにも反することになります。現在審理中の名古屋高裁において、一審判決が取り消されることを求めます。

3 認知症ゆえの行動により被害を受けた方に対する補償
 認知症であるがゆえの固有の行動から生じた被害や損害については、家族の責任にしてはいけないというのが私たちの考えですが、しかし、その被害等は何らかの方法で賠償されるべきです。 例えば介護保険制度の中にそのための仕組みを設けるなど、公的な賠償制度の検討がされるように提案します。

4 鉄道会社の対応と社会的な取り組み
 鉄道事業会社において認知症の理解と事故防止のための対応が進むことを望みます。また、認知症の人が社会で広く理解され、住民同士の協力で少しでも徘徊による事故が減少するように、 企業、学校、地域などで認知症サポーターのさらなる養成や啓発活動が進むことを期待します。 「家族の会」もそのために今後も努力することを表明します。

以上