INDEX
1. 土壌分析の結果から見た栄養素の問題点 . 1)栽培土壌の養分とその量 2. 土壌分析の結果と処置について . 1)pH 2)土壌のpHと置換性酸度 3)土壌分析結果に基づく処置 3. 肥料塩吸収量 . 1) 花卉・果菜類の肥料の吸収量 . 2) 花卉専用配合肥料の調製 . 3) 花卉専用配合肥料(液肥タイプ)の調製 . |
4. リン酸の過剰について . 1) リン酸の過剰とその影響 . ・リン酸の働き . ・リン酸の過剰 . ・過剰のリン酸はどのような形で存在し 植物吸収に影響するのか ・リン酸の過剰と葉色 5. 花の色と微量要素 . 6. 有機物使用上の注意 7. 過大視されているEC(電気伝導度) . |
1) 栽培土壌の養分とその量
単位 mg/乾土100g(≒kg/10a) | ||||||||
酸 度 (PH) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
(MgO) |
(Fe) |
|
欠 乏 | 1.0 | 30 | 5.0 | 280 | 20 | |||
標 準 | 6.0〜6.2 | 2〜3 | 30 | 50 | 50 | 320 | 30 | 2.7 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ところが、下の表−Aのように勘に頼った土作りを行った結果、殆どの項目で欠乏もしく欠乏予備軍(■ 印)か、または
過剰および過剰予備軍(■ 印)となっている。
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | ||||||||
栽培品目・場所 | 酸 度 (PH) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
キ ク (熊本) | 4.76 | 12.32 | 5.18 | 70.92 | 38.31 | 142.38 | 37.29 | |
カーネーション(熊本) | 4.28 | 47.26 | 5.60 | 398.93 | 11.78 | 343.69 | 35.78 | |
カーネーション(佐賀) | 7.36 | 2.43 | 14.08 | 709.20 | 47.74 | 636.96 | 120.96 | |
カーネーション(滋賀) | 5.78 | 9.41 | 47.36 | 721.02 | 63.58 | 462.99 | 49.39 | |
バ ラ (熊本) | 3.55 | 10.26 | 5.88 | 478.71 | 12.95 | 54.01 | 17.64 |
主に上昇に大きく起因する因子・・・(+)イオン → 石灰・アンモニア態窒素
〃 下降に大きく起因する因子・・・(−)イオン → 硝酸態窒素
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||
(KCl) |
(NO3−N) |
(CaO) |
|
この表のように、石灰量がほぼ同じ量の時、硝酸の量が増えるとそのPHは下降している。アルカリ性化した土壌へ窒素肥料を施す場合
は必ず硝酸態窒素系の肥料を使用すべきで、この時アンモニア態窒素系の肥料を施した場合には硝酸化成が遅れ、結果としてサンプル
E・Fの比較でも判るように硝酸が欠乏となってPHは上昇し作物の生育を悪化させてしまう。
土壌PHの矯正をする場合にはその石灰をどの位施用すべきかを決定するのに緩衝曲線図を用いる方法がある。
この図は一定量の土壌に種々の量のCaを加え、その時のPHを計測して曲線図にしたものである。
その図によると、pH6.5は土壌10gに対してその係数は0.005gである。従って、炭酸カルシウム(成分50%)を加えた場合、
0.005g × 300,000,000/10g(表土30cm) × 100/50 = 300,000g = 300kg という式が成り立つ
つまり、30cmの表土に対して、その仮比重を1.0とした場合の土の重量は300,000,000g(300トン)となる。そこに炭酸カルシウム
または炭酸苦土石灰(100/50=成分50%)を300kg加えればpHが6.5となり、そこにpHを下げる要因の硝酸態窒素が加わるの
でpHは0.3〜0.5下降し6.0〜6.2になる。逆に、pH上昇要因のアンモニア態窒素が加わればpHは上昇して6.7〜6.9位になる
と言う事である。
私たちが用いている分析表の石灰の標準量は300〜340kg/10a(≒乾土100g)としている。この事から考えると、CaO300kgは炭
酸カルシウム600kgの事である。つまり、上の計算からすると、その炭酸カルシウム(苦土石灰)の量は表土30cm、比重は一般的に
植物を育てるのに最適と言われている0.5くらいがその対象量である。
2) 土壌のpHと置換性酸度
< 土壌コロイドとイオンの吸着図 > |
pHの表示にはH2OとKClがある。 H2O(活性酸度)にて測定する場合は抽出液に純水、又は蒸留水を使用する。 リトマス試験紙で測定するように、被測定溶液に直接試薬を入れ数値を読み取ることが出来る。
KCl(置換性酸度)は抽出液に塩化加里液を使用する。
<< 注意 >> |
土壌分析表のpHの項を見る際、良く注意しなければならないのは、
活性酸度pH(H2O)>置換性酸度pH(KCl)の差が1ポイント近く表示されるケースがある。
この差は有機物の多少で変動はあるものの、通常でのこの差は0.3〜0.5位であるべきで、このようなケースでは念のため、
機器を調整チェックして再検定する事をすすめる。
(チェックポイント)
@ 土壌の前処理工程に於いて、振とう器にて120回/分×30分=3600回振とう処理したか?
A pHメーターの電極に使用する、過飽和塩化加里液のチェック(60℃に加温して補充)
以上、良く見かけるので注意すること。
3) 土壌分析結果に基づく処置
キク(熊本)の分析の結果を例として追肥量の計算を試みる。
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | ||||||||
栽培品目・場所 | 酸 度 (PH) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
A.標 準 値 | 6.0〜6.2 | 2〜3 | 30 | 50 | 50 | 320 | 30 | |
B.キ ク (熊本) | 4.76 | 12.32 | 5.18 | 70.92 | 38.31 | 142.38 | 37.29 | |
不足量 (A - B) | 14.50 | 11.69 | 177.62 | |||||
C.追 肥 量 43 Kg 22 〃 335 〃 |
7.31 |
7.31 |
11.90 |
177.55 |
肥 料 名 硝 安 硫酸加里 炭酸石灰 |
|||
修正値 (B + C) | 32.12 | 70.92 | 50.21 | 319.93 | 37.29 |
算出法
肥料選択の基準・・・・果菜栽培に使用する肥料一覧を参考に安価で容易に入手でき、散布し易いものを選択する。
安価である :1袋が安いのではなく、成分のキロ当りの単価が安い事。
入手し易い :JAや肥料商に在庫もしくは取り寄せに時間がかからない事。
散布し易い :必要とする成分が混合になっている物。
★注)必ず、袋の裏側の保証成分表を確認する。
窒素は硝安( A−N=17%:N−N=17% )を選択・・・・比較的安価。成分が多い( 34 % )。特に硝酸態窒素が含まれている。
14.50 ÷ ( 0.17 + 0.17 ) = 42.6 ≒ 43 Kg
リン酸・・・・過剰の状態にあり、不要。
加里・・・・・安価でいつも入手出来る、硫酸加里( K2O = 54.1 % )を選択。塩素を供給したい時は塩化加里を選択する。
11.69 ÷ 0.541 = 21.6 ≒ 22 Kg
石灰・・・・・比較的入手し易い、石灰分だけの炭酸カルシウム( CaO = 53 % )を選択する。苦土分も必要な場合は苦土石灰を選択する。
177.62 ÷ 0.53 = 335.13 ≒ 335 Kg
苦土・・・・・過剰の状態であり、不要。
3. 肥料塩吸収量
コーラル・フィッシャ・ペパーミントシムの混植 | |||||
天ヶ原(黄・白) | |||||
12/17〜7/末 13トン | |||||
8/16〜1/中旬 10.5トン |
全窒素量を10とした場合の N : P2O5 : K2O の比率は
カーネーション | 10 | : | 7.8 | : | 14.2 |
菊 | 10 | : | 7.3 | : | 14.2 |
花卉類では概ね | 10 | : | 8 | : | 14 |
きゅうり | 10 | : | 3.9 | : | 15.4 |
とまと | 10 | : | 4.2 | : | 13.4 |
果菜類では概ね | 10 | : | 4 | : | 14 |
と考えても良いのではないか。
2) 花卉専用配合肥料の調製
施肥量 | 成 分 量 | ||||
アンモニア態窒素 | 硝酸態窒素 | 全リン酸 | 加 里 | ||
硝 安 | 10.0 Kg | 1.7 Kg | 1.7 Kg | ||
過燐酸石灰 | 14.2 Kg | 2.7 Kg | |||
硫 酸 加 里 | 8.8 Kg | 4.8 Kg | |||
N : P2O5 : K2O | 3.4 Kg 10 |
2.7 Kg 8 |
4.8 Kg 14 |
これは灌水・散水にも使えるよう追肥用として“園試処方”を成分変更して液肥にした。
表−7
(g) |
|||||||||||
(NH4−N) |
(NH4−N) |
||||||||||
硝酸石灰 硫酸苦土 リン酸1アンモン |
0.118 (0.122) |
0.617 |
0.236 |
0.164 |
950 500 350 |
112.10 (42.70) |
215.95 |
224.20 |
82.00 |
||
10 |
8.08 |
14.11 |
N : P2O5 : K2O = 10 : 8.08 : 14.11 ≒ 10 : 8 : 14
(特徴)
(イ) N・P2O5・K2O以外にCaO・MgOを含有している。
(ロ) 単肥を使用する為、不必要と思える成分を除いて調製することが出来る。
(ハ) 濃厚原液どうしの調製は避ける(リン酸が石灰・苦土と化合するため)。
(ニ) 一般の肥料と比べると高価になる。緊急的に使うことをすすめる。
硝 酸 加 里 | 0.44 気圧 | ( 1Kg/1トン ) | × 0.810 Kg | = | 0.356 気圧 |
硝 酸 石 灰 | 0.28 気圧 | ( 〃 ) | × 0.950 Kg | = | 0.266 気圧 |
硫 酸 苦 土 | 0.18 気圧 | ( 〃 ) | × 0.500 Kg | = | 0.090 気圧 |
リン酸1アンモン | 0.38 気圧 | ( 〃 ) | × 0.350 Kg | = | +) 0.133 気圧 |
合 計 | 0.845 気圧 |
切り花の日持ちを良くするには。(これは、日の当たらない所でも光合成が行われたような現象を維持するための手立てです) 植物は光合成を行い炭水化物を合成しながら生命を維持しようとする。採花して陽の当たらない屋内に持ち込めば途端に光合成は出来なくなる。 根から養分の吸収も出来ない。それでも植物は生命を維持するため、今まで体内に蓄えた炭水化物などを分解消耗しながら生き続けようとするのである。
それなら、採花する前に出来るだけ多くの炭水化物(クエン酸)を含ませておく事は日持ちを良くする事にも通じる。 @) 採花の前日の朝、クエン酸液を全面潅水をし、花に十分なクエン酸を含ませる。 クエン酸液の作り方・・・食添用クエン酸1kg/水1000g当り(グリーンアップを200ccを加えると、更に良い)
A) 採花後、直ぐに花の首下までを上記クエン酸液(作り方は@に同じ)に浸し、すぐに引き揚げ軽く水を切って茎の切り口をそのまま 鮮度保持液の作り方・・・上記3−3)の液肥を2〜3倍に薄め、そこにグリーンアップ200cc/トン当りを加える。 B) 以後は上記鮮度保持液(花の日持ちを良くする浸し液)に浸して保管する。お店で使う鮮度保持液もこの液で使える。
注意> この方法は未熟で弱々しい花には不適。 |
4. リン酸の過剰について
1) リン酸の過剰とその影響
上に記した、表−5 礫耕栽培試験による植物1株当りの肥料塩吸収量で分かる通り、
花卉栽培では果菜栽培に比べるとリン酸の吸収量は格段に多い事が分かる。その差は果菜“1”に対して、花卉栽培では“2”となっている。
つまり、花は成長過程で2倍の量のリン酸を吸収している事になる。この事は、生産者の方々の認知度も大変高いようである。 ところがそれ故、花卉栽培の農家では一般にリン酸を過大評価する傾向にある事も分かった。リン酸を過大評価した結果、それを過剰気味に施肥する傾向にある。 その背景にはリン酸は花を大きくしたり、色を良くするという誤った認識がある事を耳にする。そこで、リン酸の過剰と働きについて考察した。 |
植物は代謝つまり生きていく為には様々な物質の生産をしたり、分解をしなければならない。
この時、その作用を行うにはエネルギーが必要となる。そのエネルギーの源になるのがリン酸であり、その主な働きである。
植物体は養分を根や葉面から吸収して体内で化合物を合成し分解する。また成長の段階では様々な代謝を行っている。
その代謝は酵素の反応によって行われているのは言うまでもない。
植物のこのエネルギーはある種のリン酸化合物に一旦貯蔵されて必要なところに運ばれて利用される。
このとき特に重要な働きをする化合物がアデノシンと呼ばれる誘導体である。この誘導体にリン酸が結合する数により、 植物体内に於けるブドウ糖から澱粉を合成する過程を考えてみると、まず糖は呼吸によって分解されて炭酸ガスと水になる。 このとき放出されるエネルギーの一部はリン酸2個を持つADPと無機のリン酸(1個)とから、リン酸3個を持ったATPが合成され、 このATPに一旦貯蔵されることとなる。他方、ATPはブドウ糖が複雑な過程を経て澱粉を合成する際エネルギーを放出する。 その時、リン酸1個を放出しADPとなる。 このように、リン酸(P)が出たり入ったりしてエネルギーは発せられているのである。 このようなリン酸とエネルギーの関係は人体の筋肉運動などのエネルギーにも同じことが言える。 以上述べたように、リン酸が花を大きくしたり、色を良くしたり、果実の味を良くしたりと言う表現は理学書には1行たりとも出て来ない。 だけど何故か、皆さんはこの高価なリン酸肥料を下表(表−8)で示したように、大変多く用いているのが良く分かる。 リン酸塩は1年間で50Kg/10aで充分である。 |
メモ
動物の死後硬直とリン酸 ちょっと不思議なような嘘のような話ですが、動物の筋肉を柔らかい状態に保つにはエネルギーが必要となります。このエネルギーにはリン酸が関与していると言われ、 動物ではこの源であるアデノシン三リン酸(ATP)の供給が途絶えてしまうと、筋肉の硬直が始まると言います。例えば、魚は吊り上げられた時、激しく暴れます。この暴れている間、 魚はグリコーゲンやATPのようなエネルギー源を大量に消耗している訳です。この時の体内のエネルギー成分変化は ATP→ADP→AMP→イノシン酸→イノシン→ヒポキサンチンと変化します。 また、魚は牛や豚に比べ死後硬直が早いと言われますが、これは食肉が瞬間的に屠殺されるのに対し、魚ではこの苦悶死する時間があるからだと言われています。 そこで、魚のこの苦悶死の時間を無くしてしまえば、その保存性はもっと向上するのではないかと考えられています。 このように“リン酸はエネルギーと密接な関係がある”と取り上げられるのが一般的な考え方なのです。 |
土壌中の過剰のリン酸は不効率な吸収となる。下の表は全リン酸の量に対して吸収が可能となる水溶性のリン酸がどの位の割合で存在するのか、 カーネーション栽培の土壌分析データーを示す |
表−8 分析者:米澤農業研究所
カーネ(滋賀−@) | ||||||||||
カーネ(唐 津) | ||||||||||
カーネ(滋賀−A) | ||||||||||
バ ラ(熊 本) | ||||||||||
カーネ(熊 本) | ||||||||||
カーネ(滋賀−B) | ||||||||||
キ ク(熊本) |
(1) P2O5 の項のTotal は全リン酸、 H2O は水溶性リン酸を示している。
(2) % は [ P2O5(H2O) ÷ P2O5 (Total) ] × 100 を示している。
(3) この現象はリン酸が土壌中のアルミナや鉄、マンガン、銅、亜鉛のような金属と化合して難溶性のリン酸化合物となっている。その
為、リン酸は多ければ多いほど土壌中の金属と化合しており、植物に吸収される水溶性のリン酸が少なくなるという現象を示している
と解しても良いのではないか。
(4) 故に、ここでの問題点は難溶性のリン酸を如何にして水溶性(可溶性)に変化をさせるかという事である。
( “ 有機物 ”キレート作用 の項を参照 )
ここで注目すべきは、分析値に表れる全リン酸の値は多ければ多いほど、 吸収される水溶性リン酸の値が少なくなるという現象をしっかり見て理解して頂きたい。 |
過剰のリン酸はどのような形で存在し、植物吸収に影響するのか?
リン酸過剰は拮抗現象として → 加里・銅・亜鉛・鉄・マンガンの吸収が激減する。
リン酸過剰は
湛水中におけるリン酸の存在は
有機物を使用した場合におけるリン酸の存在は |
写真−バラ |
この葉の色は緑というよりブルーに近い緑色です。 リン酸が過剰になった場合、このようにどす黒い色になります。 また、リン酸の過剰は土壌中に加里、銅、亜鉛が存在しても、吸収され難くなります。 但し、このどす黒い色は石灰欠のとき顕著に出ます。 黄化している部分はBが欠乏した為、導管組織が破壊されて栄養が行き渡らず、そのようになったものです。葉脈と葉脈の間の斑点もBの欠乏です。 |
葉の緑と苦土について 葉緑素は
a 型(緑 色) C55H72O5N4Mg ・・・・160
葉緑体( クロロプラスト:chloroplast ) |
★ 苦土が欠乏すれば、植物の葉はどうして黄化するのか?
T.葉緑素の模式図−@ | そのT.どうして葉は黄化するのか? 葉緑素にはその分子式でも分かる通り、Mg原子が核となりその固体を形成している。 Mgが欠乏すれば葉緑素の構造は成り立たなくなる。やがて、その緑色は淡くなり、やがて黄色くなる。 |
U.葉緑素の模式図−A | そのU.どうして葉は黄化するのか?
@ (石灰+苦土)+ペクチン酸 → 中層を形成している
A (石灰+苦土)が欠乏した場合 → 中層の消滅する
<< 細胞壁とホウ素の関係 >> |
5.花の色と微量要素
1) 花の色
図−Aペーパークロマトグラフィーによる色の分析 ペーパークロマトグラフィーとは |
@ 兎の毛の分析によると、
黒はFe(鉄)・Cu(銅)・Co(コバルト)・Ni(ニッケル)が必要因子となり、黄色ではFe・Mo(モリブデン)・Ti(チタン)・Niが、白はFe・Niで構成されている。
A 菊の花弁の場合、
白色はFe・Cu・Niを必要因子とし、紫色はFe・Cu・Ni・Moを必要とする。Fe・Cu・NiにMoがTiに入れ替わると黄色になる。因みに、赤色の場
合はFe・Cu・Niの金属を含むことによって、発色している。特にFeの存在量は鮮明さを左右する。薔薇栽培でも赤系の品種には鉄欠乏の発
生率が高いのはその為である。そして、この色を鮮明に映し出すのに適度の風速が大変重要になります。
シクラメンの花弁色@ |
→ | シクラメンの花弁色A |
カーネーションの花の色(ニューレッド) |
→ | 鉄分を無投与のニューレッドの花の色 |
6. 有機物使用上の注意
堆肥などの有機物を利用する事で地力を安定させ、また圃場にある過剰の養分に対して緩衝作用を利用、そして期待できるのは大変良い事と思われるが、
堆肥や有機物ならどのようなものでも使って良いとは限らない。未熟な物そしてとりわけ、その中に含まれる成分についてはしっかりと把握しておく必要のある。
また、その量は乾いたもので3000Kg、湿ったものなら6000Kgまでとする事が大事な点で、その限度を越えると反って害となるケースもある。
1) 市販の有機物肥料や有機物(堆肥)を使う場合の注意点(乾燥状態の物も含む)
市販の有機物には1次発酵さえも済んでいない物があるので注意をすること。
・開袋すると悪臭がする。
・施肥するとカビが発生する。
・施肥するとキノコが立つ。
対策(検証)
ハウスの片隅にて袋を開封し、水と容積比にして1/10の無消毒の土を混ぜて良く攪拌し、更に一週間ごとに攪拌して空気を
十分に混入させて約2〜3ヶ月間繰り返す(グリーンアップを混ぜると更に発酵が早くなる)。きのこが立たなくなったら完了。
2) 未熟堆肥の見分け方
・キノコが発生している。
・カビが発生している。
・悪臭がする。
・完全に乾燥していても、褐色である。
・ダイコンなどの種子を蒔くと発根しない。また、発根しても成長せずにそのまま枯れ死する。
(種子は取りあえずは発根する。子葉の段階までは種子に含まれる栄養で育つが、それ以後は土の栄養に頼ることと成る。)
3) 未熟堆肥について
きのこの発生
有機物の分解の最終過程で発生する。 → アンモニアの害を受ける。
有機物の分解過程
@ 炭水化物、たんぱく質の分解
→ 分解 \
細菌 ・糸状菌 菌の生育は停止(一次発酵)
→ 発熱 /
A へミ・セルロース分解
放線菌
(植物の細胞膜を構成する物質の発酵)
B セルロース(繊維質)分解
好気的分解 ・・・・・・ 細菌 ・放線菌 ・糸状菌
嫌気的分解 ・・・・・・ 高温、嫌気的な条件で良く成長する細菌 → 分解 → 発熱 → 放線菌発生
(二次発酵)
(植物の細胞膜や繊維の主成分の発酵)
C リグニン分解 ・・・・・ リグニン分解菌(きのこ)
(セルロースに伴って20〜30%存在する) ・・・・ リグニン(ナメシ剤)
故に、「 きのこ 」が発生して、それが枯れ死してはじめて有機物の完全な分解となり、ここで有機物として用いる。
注意)リグニンやタンニンの多い樹木や落ち葉の場合はまず最初にリグニン分解菌が外側の堅い組織を壊して次に糖分解菌、セルロース
分解菌の順序となる。(椎茸など)
杉オガクズ ラワンオガクズ 檜オガクズ 米マツオガクズ 米マツバーク イナワラ 籾殻 堆肥イナワラ 麦ワラ 落葉 平均堆厩肥 |
4366 1296 1666 728 74 72 19.4 18.5 21.4 20.3 |
48.0 51.6 50.0 51.0 42.3 39.8 6.2 6.1 7.5 7.9 |
0.11 0.04 0.03 0.07 0.57 0.55 0.32 0.33 0.34 0.39 |
牛 糞 豚 糞 鶏 糞 |
11 9 |
41.5 42.2 |
3.9 4.6 |
■ 炭素率調整の計算法
@ 杉オガクズ1Kgでは、窒素を何g加えるとC/N率は10となるか?
杉オガクズ1Kg中には、全炭素(C)・・・509g 全窒素・・・0.8g が含まれている。
509 . 0.8 + χ |
= | 10 |
10 χ = 509 − 8
χ = 50.1g
∴ 硝安(34%)なら、50.1 ÷ 0.34 = 147.35gとなる。
つまり、147.4gの硝安を加えれば分解が始まる。
A 杉オガクズ1Kgに対し、鶏糞は何KgでC/N率は10となるか?
鶏糞1Kg中には、
全炭素(C)・・・422g 全窒素(N)・・・46g が含まれる。
必要鶏糞を χ とすれば、
509+422 χ . 0.8+46 χ |
= | 10 |
509 + 422 χ = 10 ( 0.8 + 46 χ )
509 + 422 χ = 8 + 460 χ
460 χ − 422 χ = 509 − 8
38 χ = 501
χ = 13.1842 gとなる。
B 杉オガクズ3Kgに対して鶏糞1Kgを混合すると、Nは何g補給しなければならないか?
3 × 509 + 422 . 3 × 0.8 + 46 + χ |
= | 10 |
1949 / ( 48.4 + χ ) = 10
484 + 10 χ = 1949
10 χ = 1949−484
χ = 146.5g ∴ 硝安(34%)なら、146.5 ÷ 0.34 = 430.88gとなる。
つまり、杉オガクズ3Kgと鶏糞1Kgの合計4Kgの混合堆肥を発酵させるには窒素成分が0.1465Kgが必要となる。
それでは、この堆肥を現場で見据えた堆肥使用の最少量3000Kgとして考えた場合には、3000Kg/4Kg×0.1465Kgの109.88Kg
の窒素肥料量となり、これでは窒素分が大過剰となる。従って、この窒素肥料を用いた発酵法は到底導入できない事となる。
因って、有機物の分解は土壌の細菌、糸状菌、放線菌などによるものを利用すべきで、窒素を分解補助材として使用するのは不適当と結
論付ける事が出来る。
上記の杉オガクズ鶏糞の分解発酵には → 無消毒土壌(川または池の土壌) → 堆積して時々耕転(天地返し)する → きのこが発
生 → 枯れる → 黒色化してボロボロになった状態で完了 → 有機物として使用できる
5) おが屑を使用した堆肥を使う場合の注意点
おが屑を使用した堆肥やバーク堆肥の類はそのままの状態では3年が経過しても未発酵のままである。
外材のおが屑は港湾の貯木場に長期間浸水している。その為海水の塩分を含んでいる可能性があり塩害の恐れがある。
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||||||||
分 析 日 | PH (KCl) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
塩素 (Cl) |
@ 52.01.19 | 5.52 | 8.09 | 1.87 | 39.60 | 23.60 | 312.87 | 37.30 | 0.526 | |
A 52.02.16 | 5.72 | 4.41 | 0.67 | 106.38 | 65.69 | 340.93 | 61.49 | 0.194 | 33.32 |
B 52.04.12 | 6.78 | 2.28 | 1.67 | 96.33 | 11.73 | 195.02 | 28.22 | 0.252 | 28.72 |
C 53.10.01 | 5.63 | 6.62 | 8.61 | 285.45 | 68.71 | 395.65 | 94.75 | 0.064 | 113.45 |
D 53.01.15 | 6.97 | 3.46 | 0.67 | 36.64 | 44.57 | 766.04 | 134.06 | 0.338 | 203.45 |
標準土壌 | 6.0〜6.2 | 2〜3 | 30 | 50 | 50 | 320 | 30 | 2.7 | 10 |
(注)@ 人吉市 前作終了後の分析
A 〃 @に生豚糞8トン/10a施肥後に分析 キウリ(塩素の害)
→→ @と比較すると、堆肥に含まれる成分のリン酸、加里、苦土が異常に増加しているのが分かる。
B 福岡市 人糞+塵芥処理 栽培物=プリンスメロン(塩素の害)
C 島原市 生牛糞8トン/10a トマト枯れ死寸前(塩素の害) →→ Aと同じ状況、リン酸、加里、苦土が異常に多い
D 福岡市 ラワン材の堆肥 ラワン・・・港湾(海水)にて貯木 →→ 苦土、特に塩素が異常に多い
キノコ栽培後の廃棄大鋸屑を使用した場合
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||||||||
分 析 日 | PH (KCl) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
塩素 (Cl) |
標準土壌 | 6.0〜6.2 | 2〜3 | 30 | 50 | 50 | 320 | 30 | 2.7 | 10 |
’09. 4. 2 | 5.5 | 5.80 (適) |
13.3 (適) |
165.5 (大過剰) |
155.3 (大過剰) |
78.3 (大欠乏) |
103.4 (大過剰) |
0.14 (欠乏) |
2.7 |
栽培をする土壌の肥料調整をする時、皆さん方は肥料を撒くか、或いは撒かないでおくか、判断するのにEC(電気伝導度)を目安にしておられる方は多いと思います。
このECは肥料濃度つまり電気を通すイオンが畑の中にどれだけの量があるかどうかを表すのですが、実際には栽培に必要ないもの、
または邪魔になるものも多く含まれていると言う事を理解しておく必要があります。
例えば、上の表−9 のDのようにラワン材の堆肥をしっかりと圃場に散布したとします。ラワン材は港湾貯木場の海水にしっかり浸けてありますから、 NaCl分をしっかり含んでおります。このような輸入材を大鋸屑にして作った敷料の堆肥は、大概の場合、 この土壌分析のCl値が高いのと同様、EC値も高い事が多いのです。また、有機物を多く用いてきた圃場でも、同様にEC値は高く検出されます。
ECの測定は、土壌を1として、水(純水)を5にして加えます → 60分間振とう器にかけて、良く撹拌、混ぜます → 混濁液のまま、ECメーターで計測します (これを行わないと正確な数値は求められません)
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||||||||
サンプル | PH (KCl) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
EC |
標準土壌 | 6.0〜6.2 | 2〜3 | 30 | 50 | 50 | 320 | 30 | 2.7 | |
A | 4.92 | 5.22 | 4.54 | 297.86 | 32.46 | 293.23 | 40.32 | 1.02 | 0.73 |
B | 6.34 | 3.90 | 12.81 | 202.12 | 24.72 | 378.81 | 44.35 | 0.52 | 0.69 |
C | 6.69 | 3.75 | 4.14 | 498.80 | 53.07 | 378.81 | 42.34 | 0.37 | 0.25 |
D | 6.89 | 11.18 | 1.27 | 543.72 | 65.73 | 317.08 | 52.42 | 1.57 | 0.18 |
E | 6.79 | 3.60 | 1.47 | 439.70 | 34.12 | 319.88 | 41.33 | 0.42 | 0.17 |
ECと肥料濃度の関係を調べる為に順位をつけて見ると・・・
以下のように、肥料濃度が濃いから、EC値が高いとは限らない事が理解できる。特に、順位がAACCDDとECが低いはずのサンプルAのそれは他と比べて一番高い。
反対に、Dは濃度が@D@@C@と濃い目なのに、4位の下位にある。この事実は説明が出来ない、と言う事は他の要因が影響している筈である。
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||||||||
サンプル | PH (KCl) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
EC |
標準土壌 | 6.0〜6.2 | 2〜3 | 30 | 50 | 50 | 320 | 30 | 2.7 | |
A | 4.92 | A 5.22 | A 4.54 | C297.86 | C32.46 | D293.23 | D40.32 | A1.02 | @0.73 |
B | 6.34 | B 3.90 | @12.81 | D202.12 | D24.72 | @378.81 | A44.35 | B0.52 | A0.69 |
C | 6.69 | C 3.75 | B 4.14 | A498.80 | A53.07 | @378.81 | B42.34 | D0.37 | B0.25 |
D | 6.89 | @11.18 | D 1.27 | @543.72 | @65.73 | C317.08 | @52.42 | @1.57 | C0.18 |
E | 6.79 | D 3.60 | C 1.47 | B439.70 | B34.12 | B319.88 | C41.33 | C0.42 | D0.17 |
ここでは、@位の多い土壌Dがトップにあっても良い筈であり、下位順位の多い土壌AはEC値がもっと低くても良いようであるが・・・。
各土壌サンプルの分析項目ごとに順位をつけて見ると・・・
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||||||||
順 位 | PH (KCl) |
アンモニア (NH4−N) |
硝酸 (NO3−N) |
全リン酸 (P2O5) |
加里 (K2O) |
石灰 (CaO) |
苦土 (MgO) |
可給態鉄 (Fe) |
EC |
@ | D | B | D | D | B・C | D | D | A | |
A | A | A | C | C | B | A | B | ||
B | B | C | E | E | E | C | B | C | |
C | C | E | A | A | D | E | E | D | |
D | E | D | B | B | A | A | C | E |
少し無理があると思うが、表−13に於ける各土壌分析の数値を合計して順位をつけて見ると・・・
単位mg/乾土100g(≒Kg/10a) | |||
サンプル | EC値 | 分析値 の合計 |
順 位 |
A | 0.73 | 674.65 | C |
B | 0.69 | 667.23 | D |
C | 0.25 | 981.28 | A |
D | 0.18 | 995.97 | @ |
E | 0.17 | 840.52 | B |
このようにEC値の順位と養分濃度の順位は一致しない。 これは、例えばNaclなどの塩分や有機物などに含まれる 不純物がEC値を上げると言う事実が考慮されていない事に原因がある。一般には有機物を多く含んだ場合、EC値は高い事が多い。
従って、『肥料濃度をECで管理する事は困難である』と言うのが、私たちの結論付けである。
写真と解説 | 診断表 | |
カーネーション | ||
ばら | ||
菊 | ||
シクラメン | ||
ゆり |