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皆さんは、植物の病気と栄養素の欠乏・過剰症を混同していませんか?
例えば、トマトなどの尻腐病は石灰欠乏に起因しているということをご存知の人は多いと思います。 具体的にはカルシウムという無機の金属が欠乏したために中層組織が形成されず、組織が壊死した状態です。 その部分は栄養の届き難い果の先端(尻)の部分なのです。このような場合の解決方法として、即効性のある硝酸カルシウムを液肥にして施したり、 塩化カルシウムを葉面散布します。また、青枯れ病は病気ではなく、根が伸長しないのが原因のようです。 青枯れ病の疑いのある作物の根圏を堀り起こし、その状態を良く観察して見ることです。根は無く伸長する状態ではありません。そのうえ、気温が高い昼間は日射量も多く葉面からの蒸散も活発になります。
他方、根は水分やそれに溶けた養分が吸収できる状態にはありませんから、昼間の炎天下の植物は必然的に萎れます。 やがて、陽が傾くと蒸散作用は緩やかになり、陽が沈んでしまうとその萎れは回復します。そのような状況を毎日繰り返しながら次第に枯れていくというのが、 『青枯れの正体(過程)』のようです。このような場合は、毎日10時と14時位に葉の表裏に良く付着するように葉面散布をして、葉面からも植物体内に水分の補給をする必要があります。 そのようにして、少しでも蒸散を抑えるための遮光もする注)−@ようにします。また、葉面散布をするという作業は、炎天下での植物体の温度が高くなっているのを水の蒸散作用で下げる、 そのような作業がとっても大事な作業なのです。栽培には気温が高いのがいけないのではなく、植物体温度が高くなるのがいけないことなのです。
それでは、その『青枯れ』の原因は何か?というと、みなさんが行う『勘に頼った施肥法』による肥料成分の不均衡(過多・過少)と過湿(酸欠)による根腐れの状態なのです。 また、みなさんはその様な状況下で萎れているのだから、これは水分が不足しているのだろうと思い込み、水を与えてしまいます。そうすると状態は余計に悪くなります。その原因は、昼間の地温やハウス内の温度が高い時に散水を行った場合、その地中に含まれる肥料成分の溶解度が高まり余計に溶けるためです。 このような場合の散水は、温度の下った夜間に少量を行うようにしないといけません。
潅水に使う水にも原因があります。pHが中性以上の水は使ってはいけません。そのpHは5.5〜6.5になるよう必ず調整しなければいけません。肥料過多は土壌と植物体の浸透圧の差の問題であり、これには『根と浸透圧』という理論が大きく影響しています。pHの高い用水は『pHと肥料の溶解度(特に微量要素の溶解度)』が問題点として関連しています。
私は全国の産地を訪問すると良く耳にすることがあります。それは“水をかけると根が傷むので灌水は控えるように”という言葉です。特に、問題なのはこのことをプロである農業指導者が農家に伝えて指導をしているという事実であります。確かに、pH(H2O)が6.8以上の水、そして肥料過多・肥料過少を考慮しない、更には、水はけが良くない条件の圃場などにおいて水を多い目に与える、このようなことをすれば根を傷めて萎れるのは明らかです。。そのような地域にある圃場の農家の方は水のpHなど現状の再確認をお薦めます。そして、そのような指導者の方々に一度質問してみたいのは、トマトやキウリ、みつば等、果樹も含めた数々の作物が根を大量の水に浸した状態のまま栽培する養液栽培では、何の問題も無く栽培されているという事実をどう説明して頂けるのか?
潅水を多くした場合、作物の状態が悪くなるといって散水量を控えるのは、水のpHを考えなかったり、植物の根の浸透圧(最良は1.2気圧〜1.5気圧)を考えないからです。養液栽培では超過湿(水に根を浮かしたり、浸したまま)の状態で栽培していますが、全然問題はありません。それは、園試処方など一般に使われている肥料濃度の設計は、浸透圧が0.770気圧(EC2.4)位になるよう計算されているからです。勿論、空気も水の中に溶存酸素として圧入をしています。また、そのpHは、作物の生育最良とされる6.2になるよう計算されています。
養液栽培では 、栽培過程においての培養液pHは必ず上昇します。そのpHは6.7前後になった時点で硝酸か若しくは、硫酸で5.8位まで下げるようにします。この場合、燐酸・塩酸を使用する場合もありますが、それを使用するかどうかは培養液の中の残存燐酸量が判断の基準となります。一般には、作物は窒素源である硝酸根や蛋白源の硫酸根を多く必要としますから、高価なリン酸を使うよりは、安価な硝酸か硫酸を使用する方が賢明だと思います。このように養液栽培ではpHの調整は3日に一度調整をしなければならない位どんどん上昇します。生育が良ければ良いほど上昇します(この状態を放っておくと根は褐変して壊死します)。これは硝酸態窒素と石灰分のどちらが早く、しかも多く吸収されるかという問題なのです。
以上、ここで極めて重要なことは、この状況は養液栽培ほど急激な変化ではありませんが、土耕栽培でも同じことが起こっている、ということを認識しておかなければなりません。この状況を無視して放置した状態が『成疲れ』または『株疲れ』という、大変都合の悪い状態なのです。最後に、作物の病気を病気と片付けず、根を支えている土壌の条件を是非一度見直して下さい。そうすれば必ず病気は克服出来る筈です。皆さん達が悩んでいる病気の殆どは肥料要素の欠乏か過剰による2次的な症状なのです。
注)−@
葉緑体の光定位運動:強い光を照射すると、葉緑体は細胞壁側に避難するように動く。光を弱くすると一斉に細胞の上面に戻り並んで、また光合成を行うとする。木陰で育つような作物はクロロシスの原因になることも多いので遮光資材で適度な遮光をする必要がある。 <放送大学:植物の科学から>